LiDARとカメラで色付き点群を作る:
実測でわかった「効いたこと・効かなかったこと」

株式会社revot 技術ノート / 2026年8月3日公開 / 計測環境:Livox MID-360(室内・309フレーム・170,496点)

先に結論
  1. 深度モデルの選択より、LiDARへの「合わせ方」が精度を支配する。同じ深度モデルでも、合わせ方をアフィン変換からガウス過程回帰に変えるとRMSEが1.03m→0.455mへ改善した。
  2. レンダリング画像のPSNRは、点群の評価指標として使ってはいけない。66〜70dBという値が出るが、その99.8%は自己投影アーティファクトである。
  3. 改善には理論的な下限がある。LiDAR自身の測定ばらつきが約0.40m。最良手法0.455mはそこから5.4cm。ここから先は手法ではなく計測条件の問題。
  4. ターゲットレス校正は途中までしか行けない。投影誤差は48.5%改善できたが、観測の弱いパラメータは信用できず、最終的にはチェッカーボードが要る。

1. 単眼深度モデル10種の比較(LiDAR基準)

カメラ画像から深度を推定するモデルは多数公開されています。それらが実際にLiDAR点群の密化に使えるのかを、同一データで比較しました。評価はLiDAR点を50/50に分割し、片方で作った深度でもう片方を予測する leave-one-out RMSE です。

順位手法合わせ方RMSE誤差10cm未満の割合
1LiDAR点の古典的補間0.482 m88.2%
2古典補間+RGBガイデッドフィルタ0.485 m86.8%
3DPT-LargeRANSAC / アフィン1.035 m21.4%
4DPT-Large対数1.039 m23.9%
5Apple DepthProべき乗則1.041 m
6ZoeDepth対数1.049 m21.3%
7Distill-Any-Depthアフィン1.057 m26.8%
8Depth Anything V2 Small対数1.058 m23.2%
9GLPNRANSAC1.097 m17.8%
10PromptDA対数1.156 m6.5%

この時点での結論は「ニューラル深度は使い物にならない」でした。どのモデルもLiDAR点をそのまま補間するだけの古典手法の半分以下の精度しか出せていません。

2. ところが、合わせ方を変えると逆転した

上の表で使っていたのは、単眼深度をLiDARに合わせるための単純な変換(アフィン・対数・べき乗則・RANSAC)です。これをガウス過程回帰(Random Fourier Features による近似、n=20,000)に置き換えたところ、結果が反転しました。

手法RMSE備考
LiDAR自身の測定ばらつき(理論下限)約 0.401 mこれ以上は手法では改善しない
Depth Anything V2 + GPR-RFF(n=20k, ls=12)0.4554 m最良
古典補間(同一条件・split=0.5)0.4817 m最良手法が2.6cm上回った
Depth Anything V2 + アフィン/対数1.03〜1.06 m同じモデルでも合わせ方でここまで変わる
ここが一番の学び
同一の深度モデル(Depth Anything V2)で、合わせ方を変えただけで RMSE が 1.06m → 0.455m と半分以下になりました。深度モデルの比較記事は多くありますが、実務で効くのは「どのモデルか」ではなく「LiDARにどう合わせるか」です。

ハイパーパラメータの探索結果

再現の役に立つよう、探索の実測値も出しておきます。

パラメータRMSE所見
長さスケール ls100.4764 m空間変化を追いすぎて汎化が悪い
110.4574 m−19.0mm の大改善
120.4554 m最適点
130.4568 m+1.4mm と反転して悪化
RFF次元 n15,0000.4594 m
20,0000.4554 m最適点
25,0000.4615 m共役勾配法へ切り替わり悪化
30,0000.4574 mn=20kには及ばず

正則化係数αは実効値0.14〜1.6の広い範囲でRMSE差0.5mm未満のプラトーでした。つまりαの調整に時間をかける意味はなく、長さスケールの選択が支配的です。この環境では ls=12(12m相当)が最適で、これは計測空間の特性的なスケールと解釈できます。

3. 使ってはいけない評価指標

レンダリングPSNRは偽指標です。
色付き点群を元のカメラ位置に投影し直してPSNRを測ると、66〜70dBという極めて高い値が出ます。しかしこれはピクセルの99.8%が元の位置へ戻るだけの自己投影アーティファクトで、深度や色の正しさを何も測っていません。この指標で改善を追いかけると、何時間でも無意味な最適化を続けてしまいます。

正しくは、LiDAR点を分割して片方でもう片方を予測する leave-one-out 評価を使います。当社ではこの取り違えに気づくまで、実際に偽の改善を追いかけていました。同じ落とし穴に落ちる人が減るよう記録しておきます。

4. ターゲットレスの外部パラメータ校正はどこまで行けるか

LiDARとカメラの相対位置・姿勢(外部パラメータ)は、通常チェッカーボードを撮って求めます。これを board なしで詰められるかを試しました。

やったことカメラ画角内への投影率判定
単位行列(初期値)0.3%失敗
エッジ整合+相互情報量の自動探索0.4%失敗(局所最適に収束)
物理制約つき10万サンプルのランダム探索0.3%失敗
12方向の基底回転テストで象限を特定 → 局所最適化21.6%成功

広い空間をランダムに探すより、基底となる向きを先に離散的に当ててから局所最適化する方が確実でした。その後のターゲットレス精緻化で、投影エッジ誤差の平均を 39.15px → 20.15px(約48.5%改善)まで詰めています。

ただし限界があります。前方並進(カメラ光軸方向のずれ)は投影像への影響が小さく、観測が弱いため信頼できる値が出ません。当社では回転と横・上下方向の並進だけを採用し、前方並進は旧値のまま残しています。最終的な確定にはチェッカーボードによる実測が必要です。また内部パラメータ(焦点距離)を同時最適化しようとすると探索下限に張り付いて退化しました。焦点距離は先に確定させるべきです。

5. カメラで色が付くのは点群の何割か

意外に知られていませんが、静止して撮る限り、カメラで実際に色が付くのは点群のごく一部です。当社の計測では、カメラ画角に入る点は全体の6〜21%程度でした。残りは反射強度によるグレースケールや、平面の延長で埋めることになります。

また、カメラと点群を突き合わせた欠損分析では、欠損率19.6%のうち鏡面金属が12%、近接したソファが14%、遠方が6%を占めていました。素材と距離で明確に傾向が出ます。

被覆率を上げる現実的な方法は一つで、パンしながら並進して多視点で撮り、多フレームを融合することです。静止撮影では被覆はほとんど増えません。

6. この記録の位置づけ

ここに書いた数値は、すべて特定の1環境(Livox MID-360・室内・309フレーム・未校正のカメラ)での実測です。一般的なベンチマークではありません。とくに深度モデルの順位は、カメラの内部パラメータが未確定であることの影響を受けている可能性があります。

それでも公開する理由は、「合わせ方がモデルより効く」「レンダリングPSNRは偽指標」「ターゲットレス校正の限界」の3点は、環境によらず再現する性質の知見だと考えるからです。同じ課題に取り組む方の時間の節約になれば幸いです。

よくある質問

Q. 単眼深度推定モデルはLiDARの代わりになりますか

そのままでは代わりになりません。アフィン変換や対数変換で合わせた場合のRMSEは1.03〜1.16mで、LiDAR点を古典補間した0.48mに大きく劣ります。ただし合わせ方をガウス過程回帰に変えると0.455mまで改善し、古典補間を2.6cm上回りました。

Q. LiDAR点群の深度精度はどこまで上げられますか

LiDAR自身の測定ばらつきが下限になります。当社の環境では約0.401mで、最良手法0.455mはそこまで5.4cmでした。ここから先は手法ではなくセンサーか計測条件の問題です。

Q. 点群の色付けをレンダリングPSNRで評価してよいですか

いけません。66〜70dBという値が出ますが、99.8%が自己投影アーティファクトです。leave-one-out評価を使ってください。

Q. GNSSが使えない場所でも点群は取れますか

取れます。LiDARによる自己位置推定(SLAM)を使えば、屋内・地下・橋梁下など衛星の電波が届かない環境でも計測できます。当社の非GNSSドローン開発はこの技術を前提にしています。

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