GPSが使えない場所でドローンを飛ばす実装の勘所
「GPSの代わりに何を載せればいいですか」とよく聞かれます。結論から言うと、単独で代わりになるセンサーはありません。弱点の異なるものを組み合わせ、互いの穴を埋める設計になります。ここでは、実際に非GNSS環境で機体を飛ばして破綻した場面と、その対処を書きます。カタログには出てこない話です。
GPSが使えないと、ドローンは何を失うのか
屋外のドローンが安定して飛べるのは、GNSS(GPS等の衛星測位)が「自分が地球上のどこにいるか」を絶対座標で継続的に教えてくれるからです。これが無くなると、機体は次を一度に失います。
| 失うもの | 結果として起きること |
|---|---|
| 絶対位置 | 「戻る」「指定地点へ行く」ができない |
| 対地速度 | ホバリングしているつもりで流される |
| ドリフト補正の基準 | 誤差が時間とともに際限なく積み上がる |
| 高度の絶対基準 | 気圧高度計だけでは階層のある屋内で破綻する |
ここで最も厄介なのは3番目です。IMU(慣性計測装置)だけで位置を出そうとすると、加速度の二重積分で誤差が時間の2乗で発散します。数秒でメートル級にずれるため、IMU単体は位置推定の手段になりません。非GNSS飛行の本質は「何で補正するか」の設計です。
GPS以外に使えるセンサーと、それぞれの限界
「GPSの代わりに何を載せるか」という質問をよく受けます。単独で代わりになるセンサーは存在せず、弱点が異なるものを組み合わせて互いの穴を埋めるのが実際の設計です。
| センサー | 得られるもの | 限界・弱点 |
|---|---|---|
| IMU(加速度・角速度) | 姿勢と短時間の動き。応答が最も速い | 位置は発散する。単独では使えない |
| LiDAR | 周囲形状。暗所でも使える | 長い直線通路・広い空間で特徴が消える/重量とコスト |
| ステレオ/単眼カメラ | 視覚的特徴点。軽量安価 | 暗所・逆光・白い壁で破綻/単眼はスケール不定 |
| 下向き光学フロー | 対地速度。ホバリング安定に有効 | 床が無地だと出ない/高度依存 |
| 距離センサー(ToF等) | 対地高度。安価で確実 | 階段・段差で不連続に飛ぶ |
| 気圧高度計 | 相対高度 | ドアの開閉やプロペラ後流で数m動く |
| UWB等の測距ビーコン | 絶対位置に近い基準 | 事前に設置が必要=現場が限定される |
実際に効いた組み合わせ
当社が非GNSS環境の機体で採った基本構成は、「速いが発散するもの」と「遅いが絶対的なもの」を階層に分ける考え方です。
- 高速層(数百Hz):IMU で姿勢と短時間の動きを取る。制御ループはここに追従させる
- 補正層(10〜20Hz):LiDAR によるスキャンマッチングで、IMUが溜めたドリフトを引き戻す
- 補助層:下向き距離センサーで対地高度を、光学フローで対地速度を独立に取り、片方が破綻しても検知できるようにする
重要なのは「多数決ができる状態」を作ることです。センサーが2つだと、値が食い違ったときにどちらが壊れているか判断できません。3系統あれば、外れた1つを切り離して飛行を継続できます。
現場で実際に破綻した場面
設計どおりに動かなかったケースを挙げます。これらは仕様書には出てこず、飛ばして初めて分かります。
| 破綻した場面 | 何が起きたか | 対処 |
|---|---|---|
| 長い直線通路 | 前後方向に特徴が無く、LiDARが「進んでいない」と誤認して機体が前進し続ける | 光学フローで対地速度を独立に監視し、矛盾したら減速 |
| 白い壁・ガラス | カメラの特徴点が出ない/LiDARが透過して距離を取り違える | 視覚を主系にしない設計へ変更 |
| プロペラ後流 | 狭所で気流が壁に跳ね返り、気圧高度が数m単位で暴れる | 気圧は高度の主系から外し、参考値に降格 |
| 粉塵・水滴 | LiDARが手前の粒子を障害物として拾い、緊急停止を繰り返す | 単点の外れ値を時系列で除去してから使う |
| 段差・階段 | 対地距離が不連続に変化し、高度制御が急上昇を指令する | 不連続を検知したら高度目標を保持する |
「非GNSS対応」と言うときの実際の到達段階
この言葉は幅が広く、どの段階を指しているかで難易度が桁違いに変わります。発注時はここを揃えないと認識がずれます。
| 段階 | できること | 難易度 |
|---|---|---|
| 1. 安定ホバリング | その場に留まる。操縦は人 | 低〜中 |
| 2. 手動飛行の補助 | 壁への接近を止める、流れを抑える | 中 |
| 3. 経路の自律飛行 | 指定した経路を自分で辿る | 高 |
| 4. 未知空間の自律探索 | 地図が無い場所を自分で調べながら進む | 最高 |
| 5. 帰還保証 | 異常時に自力で出口まで戻る | 最高 |
多くの案件で本当に必要なのは1〜3です。4・5を最初から求めると費用と期間が跳ね上がります。当社では、まず現場で1〜2を成立させ、そこで得たデータを見てから3へ進む段取りをお勧めしています。
検討時に先に決めておくべきこと
- 飛ぶ場所の明るさ――暗所があるならカメラ主体の構成は選べません
- 空間の形――長い直線通路や広い空間があるかで、補正手段の選定が変わります
- 事前設置が可能か――UWBビーコンを置けるなら難易度が大きく下がります
- 必要な精度――「数十cm」と「数cm」では構成もコストも別物です
- 飛行時間――LiDARは重く、搭載すると飛行時間が削られます
- 異常時にどうするか――その場で着陸してよいのか、戻る必要があるのか
これらが未定でも構いません。むしろ現場を1回飛ばすと大半が決まります。当社ではPoC(98万円〜/1〜3か月)で先に確かめてから本開発に入る進め方を標準にしています。
費用と期間の目安
| 範囲 | 費用の目安 | 期間 |
|---|---|---|
| 現場での飛行検証(PoC) | 98万〜400万円 | 1〜3か月 |
| 自己位置推定の実装 | 500万〜1,200万円 | 4〜8か月 |
| 機体設計から一貫 | 1,000万〜2,000万円 | 6〜12か月 |
補助金・奨励金を使うと実質負担は1/2〜1/3になります。制度の選定から申請、開発、実績報告まで、補助金・助成金のコンサルティング・サポートもrevotグループが全て行います。採択を保証するものではありません。